捜査員が目を疑った「性体験日記」
42歳ロリコン無職…少女40人と“関係”
「悩みを聞いてくれるやさしい親切なおじさん」。42歳、無職の男はインターネット上でそう評判となり、40人もの少女たちと無償で関係を持っていた。大阪府警サイバー犯罪対策室は3月、ネットのブログを通じて知り合った小学生の女児らにわいせつな行為をしたとして、強姦などの容疑で福岡県北九州市の無職、井上貴志被告(42)を逮捕、最終送検した。幼い少女に性的興味を抱く、いわゆる「ロリコン」趣味。少女たちはなぜ親ほど年の離れた井上被告に無償でその身を委ねてしまったのか。井上被告の倒錯した性癖を加速させたのも、少女たちを誘い出して関係を持つ手法を教えたのも、ネットだった。
「1人で悩まないで。人生の先輩として相談に乗ってあげようか」
犯行はいつも、少女たちのブログのコメント欄に書き込むことから始まった。
いじめ、恋愛、親との衝突…。思春期の悩みは尽きない。行き場のない怒りや不安、恋心を少女たちは赤裸々にブログにつづっていた。だがそれこそが井上被告の格好のターゲットになってしまった。
井上被告は少女たちのブログに頻繁にアクセスし、悩んでいる様子の文章を見つけては、回答を書込むという作業を繰り返した。
「きちんと相談に乗るそぶりを見せるから、少女たちには『優しい親切なおじさん』と映ってしまったようだ」(捜査関係者)。
関係を持った少女たちについて井上被告は府警の調べに「いじめとか心を病んでいる子が多かった」と供述したという。自分を否定せずに悩みを聞いてくれて、アドバイスもくれる。欲望と嘘にまみれた優しさであっても、成長途中の不安定に揺れ動く心にはじわりじわりと染み込んでいったのだった。
「僕もブログやってるんだけど、見にこない?」
悩み相談を通して少女と一定の信頼関係を築くと、自分のブログに誘導するのが常套(じょうとう)手段だ。第2ステップは、少女の性的好奇心を刺激し“その気”にさせることだった。
「貧乳はすばらしい」と題された井上被告のブログにはチャット機能があり、複数の少女たちとのやりとりがつらつらと並ぶ。
「胸のサイズはいくつ?」
「BorCです」
「僕とHする?」
「仲良くなったらね」
性に興味を持ち始めた少女たちにとっては、そんな冗談のような言葉遊びですら、好奇心をそそるには十分だった。
「そろそろ会ってみない?もっとくわしく相談にも乗れるよ」
タイミングをみて井上被告は少女たちにデートを持ちかけた。ときには体の関係を持ちたいと匂わせたこともあった。
「恥ずかしいからイヤ」
少女が尻込みする様子をみせると、「大丈夫。経験もテクニックも持ってるから、初めてなら優しく教えてあげるよ」。
だが、少女が強く拒んだときはすんなりと引き下がった。ネットでは風評が爆発的な勢いで広がる。だからこそ「無理強いはしない」。それが井上被告が行き着いた、少女と穏便に関係を持ち続ける秘訣だった。
「撮っていい?すぐ消すから」
50人もの少女が、井上被告の問いかけに、戸惑いつつもこくりとうなずいた。
自宅にあったパソコンからは、少女約50人の裸の写真約6千枚と、ポルノ動画約50本が押収された。
「法律に違反することをしているのがよかった」
井上被告の供述に、卑劣な押収画像を検証し続けた捜査関係者は、怒りを禁じ得なかったという。
井上被告が関係したとされる少女40人のうち、立件された10人は大阪や東京、沖縄など7都府県にまたがる。井上被告は仕事についたり辞めたりと定職を持たず、収入面では不安定だったとみられるが、性欲と背徳感に突き動かされるように、全国どこへでも積極的に“出張”した。
現地ではレンタカーを借り、犯行場所はラブホテルを選んだ。それも一緒にいるのが年端もいかない少女だと周囲に気付かれないために、必ず精算を受付ではなく、部屋に設置された機械でするタイプのホテルを下調べするという力の入れようだった。
井上被告のブログに掲載された「日記」を読んだ捜査員は言葉を失った。
「まるで官能小説や」
日記には、何人もの少女たちに対して行った犯行の様子が、おぞましいほど細かく描写されていたのだ。
待ち合わせの場所、当日の少女の服装、一緒に飲んだジュース、そして、幼い体に触れたときの反応…。犯行を終えてホテルを出る瞬間までの様子が、少女1人につきA4判用紙6枚分もの文章で書き記されていたという。
だが驚くべきは、日記に自分への犯行の様子を書込まれた少女たちもまた、自分のブログに、「優しいおじさんだった」と体験記を書いて宣伝していたことだ。捜査関係者は「ネットの世界は広いようで、小中高生など特定のコミュニティーにとっては極めて狭い」と警告する。井上被告の存在はプラスのイメージで少女たちの間で評判となり、また次の被害者が生まれるきっかけになった。
「中学生とHする方法」と検索サイトにキーワードを打ち込むと、何万ものみだらなサイトが出現する。児童ポルノをネットで閲覧するうちに、急速に少女への興味が膨らんでいったという井上被告も、検索サイトを駆使して研究を重ねたという。
悩み相談も性的な内容のブログも、すべてはネットで学んだ手法だ。街中ではとうてい声をかけられないような少女たちにも、ネットを介すれば自由に話し、信頼を抱かせ、接近することができた。
まだまだ幼さの残る小中学生の娘が、ネットで知り合った自分と同世代か、もしくは年上の男と興味本位で関係を持っていた。その事実にどれほどの親が気付くことができるだろうか。
内閣府の平成24年度調査によると、小中高生の携帯電話所有率は年々上昇。パソコンと同様にネットが利用できるスマートフォン所有率は小学生7・6%▽中学生25・3%▽高校生55・9%だった。ところが、有害サイトの閲覧を制限するフィルタリング機能を利用している小学生は76・5%▽中学生68・9%▽高校生54・4%にとどまっている。
情報セキュリティー会社「デジタルアーツ」(東京都)の22年の調査では、全国の小中高校生の26・1%がネットで知り合った友達がいると回答。うち28%は「実際に一人で会いに行った」と答えた。
同社は「これからは親もスマートフォンを持って、子供と一緒にネットの現状とモラルを勉強していった方がいい」と訴える。同社によると、フィルタリングはアダルトサイトなどの有害サイトをブロックするだけでなく、ブログの閲覧はできても書き込みはできないなど、さまざまな組み合わせが可能だ。だが、調査では女子のフィルタリング使用率が年々低下しているという結果も出ている。
ネットには少女たちの思慮を軽く上回る悪知恵が渦巻く。大人たちは小中高生のネット利用を今一度考え直す必要に迫られている。
(2013.3.30 産経新聞)