リブロ池袋本店
2015/7/20閉店しました
東京都豊島区南池袋1-28-1 西武池袋本店 書籍館・別館
株式会社リブロ(LIBRO CO., LTD.)
リブロ池袋本店は金食い虫? 元店長が閉店理由を分析〈週刊朝日〉
1980年代から90年代にかけて、西武池袋店内のセゾン美術館とともに、「セゾン文化」と称される贅沢(ぜいたく)な空間を作りだしていたリブロ池袋本店が閉店した。リブロが生み、残してきたものから見えてくる戦後の書店の潮流とは何か。リブロ出身で現在はジュンク堂書店池袋本店副店長の田口久美子さんをインタビュアー・木村俊介氏が取材した。
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私がリブロで仕事をしたのは76年から97年まで。93年から97年までは池袋本店の店長を務めました。あの「池袋リブロ」がなくなってしまうのはやはり残念ですよね。
ただ、西武百貨店にリブロが設立された75年当初から、百貨店の中でリブロはすでに「金食い虫」と言われ、利益の出にくい存在でした。今回の閉店に至るまでの流れにも、他業種に比べての利益率の低さも関係しているかと思います。
書店業界は、戦後まもなくできた再販制(53年施行)に、ずっと縛られてきているんですよね。出版社は取次を通して新刊を卸す。書店は売れ残れば返品でき、出版社は定価で再出荷できる。販売リスクを減らすこの再販制のおかげで、戦後、小さな書店も含め商売ができ、世界でも出版大国と言われるほどの流通網ができました。ただし、安定した流通を支える取次がマージンを取るため、書店の利益率は小売業でも最低の水準のまま今日まで来ています。
再販制は、戦後に薬やガソリンなど生活に必要な商品の多くで採用され、メーカーを保護することで各分野の復興を促しました。しかし、市場の成熟に伴って、メーカーが販売店に定価を強制するのは公正な取引を妨げると、多くの分野では再販制は外れていきました。
最終的には、CDまで再販制は有名無実化し、今では事実上、書籍と雑誌、新聞だけが再販されているわけですよね。書店は低い利益率による経営を大型店化で何とか補い続け、小さな店舗は潰れていきました。でも、それが今では本が売れないのとネット書店の繁栄とで、もはや大規模店も潰れそうになっているんですね。今回のリブロ池袋本店の閉店も、そうした一連の流れの延長線上にあると捉えています。
創業が70年代半ばと、書店としては後発だったのもあって、池袋リブロには、業界内での、いわゆる「はぐれ者」ばかりが書店員として集まってきていました。置ける本の量では大手にはかなわない。そこで、当時どこでもやってなかった、「自分たちがこの社会を表現する棚を作るんだ」「イベントもやるんだ」という個性を出したのは、その後の書店業界に通じる一つの潮流を生んだとは思います。
今も特に新興や地方の店舗は、基本的には棚作りとイベントで勝負していますから。その意味では、池袋リブロが閉店するのは残念ですが、魂を受け継ぐ場は残ったと言えるのかもしれません。私を始めリブロ出身者が何人か移って97年に開店したジュンク堂池袋本店にしてもそう。今の若いスタッフも「本の力を生かしたい」という気持ちは持っていて、昔とのつながりを感じますから。
戦後の書店の大きな変化の一つとしては、女性の活躍も挙げられるかもしれません。今のジュンク堂池袋本店にしても、店内の企画の中心はおおむね30代後半の女性たちが担っています。これは私が働きだした女性に権限のない頃とは、ずいぶん変わりました。
書店員の労働条件は厳しいのですが、「この業界で生きていくと決めた」とはっきり言ってくれるような、店内でも主力の女性たちはみんな、家の中で本に囲まれて育ったようなんですよ。実利以上に本そのものを大事にする、いわゆる「団塊ジュニア」の彼女たちの存在も、ある意味では戦後民主主義が次世代に生んだものではないでしょうか。
他の変化としては、やっぱりネットやコンピューターの普及かと思います。
今は、本というのは検索機でお客さん自身が探すものになりました。店の主役は、それこそかつての池袋リブロのようにムダなく作られた「棚」ではなくて、ムダも含めて多めに集めた本から探す「お客さん」になりました。「棚」が書店の主役たりえていた時代が、リブロ的な文化を代表とする流れの最盛期だったとも言えるのかもしれません。
与えられたものを読むだけではないという意味で、書店は成熟したとも言えるでしょう。だから、ネット書店が伸びる時代だとも理解できます。しかし、多様性がある中から真の意味で新しい本が選ばれているとは、まだ言いがたい。
受け取れる刺激がわかりきった安易な本が売れがちだという現実には、危機感がありますね。読者が歯ごたえのある本を求めていなければ、奥の深いものを書く人は存在できない。
その点で、村上春樹さんのように人気と読みやすさを備えながらも、ものすごく複雑な世界を開拓し続ける作家がいるのは、とてもありがたいことなんです。
※週刊朝日 2015年8月28日号