和歌山市塩屋1丁目の土木建設会社「和大(わだい)興業」で4人が死傷した拳銃発砲事件で、和歌山県警は31日午後6時40分ごろ、殺人容疑などで指名手配していた溝畑(みぞばた)泰秀容疑者(45)の身柄を確保した。31日未明から同社近くのアパート付近に拳銃2丁を持って立てこもり、自分の腹を撃ったところを捜査員が銃刀法違反容疑で現行犯逮捕。すぐ釈放されて病院に運ばれたが、約2時間後に死亡した。
捜査本部は31日夜に記者会見。丸木健嗣刑事部長は、溝畑容疑者が腹を撃つ直前、「絶対に投降しない」と話して自殺をほのめかしたと説明。「残念な結果になった」と述べた。
県警によると、溝畑容疑者は30日午後9時10分ごろの目撃通報で駆けつけたパトカーに、和大興業付近で自転車に乗っているところを発見された。追跡してきたパトカーに拳銃で4発発砲して窓ガラスを割ったうえ、同社から約100メートル西の2階建てアパートの通路周辺に立てこもった。31日朝には銃を下に向けて2発発砲。アパート外階段の上り口に洗濯機といすでバリケードを作った。
取り囲んだ捜査員が投降を説得し続けていたが、溝畑容疑者は31日午後6時半すぎ、捜査員と会話中にアパートそばの路上に下り、右手に持った拳銃で突然自分の腹を撃ったという。
溝畑容疑者は立てこもっていた17時間あまりの間に、アパートの空き室内や隣接する建築中の民家の足場を拳銃を持ちながら移動。捜査員の会話に時折応じ、「金を母親に渡して欲しい」「親をばかにするな。手紙を書いているので渡して欲しい。マスコミを呼べ」「1階のおじいちゃん避難させたってくれ」などと話していたという。
捜査員がアパート1階の住民の男性(80)を避難させる際、溝畑容疑者が1階に置いていたかばんを押収。中には現金200万円と手紙が入っていたという。県警はアパートのそばで、刃物や注射器、小分け袋が入った別のかばんも押収している。
溝畑容疑者は29日午前8時50分ごろ、和大興業内で従業員男性4人の腹部などを拳銃で撃ち、石山純副(じゅんすけ)さん(45)=和歌山市小雑賀(こざいか)=を死亡させ、44歳の男性を意識不明の重体とし、43歳と46歳の男性には重傷を負わせた疑いがある。今年8月、覚醒剤取締法違反の罪で実刑判決が確定し、4人を撃った29日に刑務所に収監される予定だった。
現場はJR紀勢線宮前駅から南西約1・4キロの住宅街の一角。県警は立てこもり現場の塩屋地区の東側の市道の一部区間を通行止めにし、現場一帯に規制線を張り巡らせて出入りを規制した。周辺には臨時休業の店舗も出た。規制線が張られた中に家がある女性(73)は「やっと外に出られると思い、ほっとしています」と話した。
溝畑泰秀容疑者(45)は会社を実質的に切り盛りし、今春まで地域で自治会長を引き受けるなど「しっかり者」という評判もあった。一方で従業員を拳銃で撃ったとされる29日は、覚醒剤取締法違反の罪で有罪が確定し、刑務所に収監される日でもあった。
死亡の溝畑容疑者、捜査員に「親をばかにするな」
溝畑容疑者が専務を務めていた「和大興業」の従業員男性は、給料を手渡される時、溝畑容疑者から毎月、「がんばってな」と声をかけられた。しかし昨年、突然会社に来なくなった。「専務は覚醒剤で捕まった」。知人が言った。
受注は減り、会社の経営は傾いた。男性は「逮捕後に会社が違う雰囲気になり、疎外感を感じたのかも。事件は、自分が追いやられた憤りが原因ではないか」と推測する。
溝畑容疑者は、地元では面倒見の良さで知られる一方、同社で勤務していた頃は“裏の顔”もみせていたという。
「仕事ぶりが強引だった」。同社と取引をしていた建設会社の50代の男性社長は溝畑容疑者についてこう振り返った。
同社が担当した現場で勤務した経験がある40代男性も「やんちゃで、仕事も雑な印象があった」と話した。
ただ、数年前には自ら地元の自治会長を買って出るなど、地域の活動には熱心だった。近所の女性は「気さくな人柄でいろいろと世話を焼いてくれた。とても親切だった」と語った。だが、粗暴な振る舞いがあったことから、結局、任期の途中で自治会長は交代になったという。
覚せい剤取締法違反の罪に問われ、現在は保釈中の身だったともされる。知人男性は「昔から薬物絡みのうわさが絶えない人だった。薬物に手を出してしまったことで人が変わってしまったのかもしれない」と声をひそめた。
一方、銃撃を受けて亡くなった石山純副(じゅんすけ)さん(45)は会社の実務を取り仕切る中心人物だった。まじめな人柄で知られ、取引先の信頼も厚かった。
「よく笑い、感じが良い」。付き合いのある取引先が振り返る石山さんの印象だ。
仕事の話をするために、石山さんと月に1度は会っていたというリサイクル会社社長の男性は「会社の番頭役のような感じで実質的に会社を切り盛りしていた。本当に亡くなったのか」と無念そうに話した。
給与や会社経営話し合う場で急に発砲か 和歌山4人死傷
和歌山市の土木建設会社「和大(わだい)興業」(塩屋1丁目)で従業員4人が死傷した拳銃発砲事件で、従業員らは撃たれた8月29日朝、殺人容疑などで指名手配された溝畑(みぞばた)泰秀容疑者(45)=同31日に自分の腹を撃ち死亡=と給与や今後の会社経営を話し合うために会議室にいた際、急に発砲されたことが捜査関係者らへの取材でわかった。経営を巡るトラブルがなかったか調べている。
県警によると、従業員4人は8月29日午前8時50分ごろに社内で相次いで撃たれた。捜査関係者などによると、覚醒剤取締法違反の罪で実刑判決が確定した溝畑容疑者はこの日が刑務所への収監日だった。雨天で工事現場へ出なかった従業員らは、同社経営者の次男で専務を務めていた溝畑容疑者が収監中の会社の運営や残業手当などの支払いに関して話すため、会議室に集まり、1時間以上雑談していたところ、突然撃たれたという。
溝畑容疑者は直後に逃走。31日未明から同社近くのアパート付近に自動式拳銃2丁を持って立てこもり、同日午後6時40分ごろ路上で自身の腹を撃って約2時間後に死亡した。
(朝日新聞デジタル 9月1日)