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アマゾン キンドル

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Kindle読み放題"急変"、裏にあった「想定外」

(東洋経済オンライン 9月15日)

8月31日、朝日新聞デジタルに以下のような記事が掲載された。

アマゾン読み放題、人気本消える 利用者多すぎが原因? 


あー、その話か、と思いつつも、多分この話、多くの人は誤解も含めて理解しているのではないか、と思う。
そこで、関係者からのヒヤリングをもとに、きちんとした解説をしてみたいと思う。要はこれ、「アマゾンの見積もりが甘かった」「日本の出版の状況は、海外と大きく違っていた」ことが原因だ。

以前も本メルマガのコラムで書いたことがあるように、アマゾンの読み放題サービス・Kindle Unlimitedにはいくつかの支払いルールがある。 一つは、このメルマガも含め、セルフパブリッシング系の書籍が適応されている「KENP」という指標に基づく支払いだ。KENPとは、書籍の内容をある基準に応じてページ単位に換算したもので、読者がKindle Unlimitedから本をダウンロードして読むと、読んだページの分がKENPに換算される。

 アマゾンには利用者からの収益をベースにした「KDPセレクト基金」というものがあり、これを読まれたKENPの分(KENPCという)だけ、権利者に分配する仕組みになっている。元の本の価格とは関係がない。だから、どんな本でも読まれたページ分しか入ってこない。

 もう一つは、特例措置として、日本の一般的な出版社などを中心に適応されていたルールだ。それは、読まれた量やKindle Unlimitedへ参加した作品の量に応じて、追加の料金を支払う、というものだった。ある電子書籍取次を介した場合、2016年12月31日までは、KENPでのカウントではなく、1購読につき、通常の販売と同じ額が支払われる、という条件だった。

 ちなみにこの場合の「1購読」とは、作品の10%以上を読者が閲覧した場合で、1人が同じものを複数回10%以上読んでも、最初のみ有効だ。とにかく10%が読まれればお金が入ってくるという、なかなか有利な条件だった。

 今回、アマゾン側から早期終了が通告されたとするのは、後者の特例措置である。あまりにたくさんの書籍がそこで消費されたため、アマゾンとしては割に合わなくなった、ということだ。出版社側から自発的にリストから落としたものもあるが、アマゾンの側から一定のリストが示され、その中にあるものを対象から外すか外さないか、という選択を迫られる場合もあったようだ。Kindle Unlimitedへの参加継続を希望する出版社としては、そのリストの許諾を飲まざるを得ない、という状況だったという。

 読み放題サービスは「食べ放題」に例えられるが、その例でいえば、「そんなに高くつかないだろう、消費されないだろう」と宣伝のつもりで用意したいい肉がどんどん食べられて、店として赤字になったので悲鳴を上げた、というところだろうか。

 ここには、日本の出版の持つ事情が存在する。

 それは、「雑誌とコミックが強い」ということだ。両者には、小説やノンフィクションに比べ「ページ消費が早い」という共通項がある。小説10冊を一気読みするのは大変な時間を必要とするが、マンガ10冊の一気読みは、まあ、できないことはない。雑誌も拾い読みしていけばけっこうなスピードで読める。これが写真集やグラビアとなればもっと速い。

 日本は他国以上に出版が多様化しており、コスト的にも安い。「出版」というと文字ものを考えてしまいがちになるが、出版社を支えているのはマンガであり雑誌であり写真集だった。電子書籍についても、マンガの売り上げが8割を占める。

 ところが、Kindle Unlimitedの算定ベースは「ページ」だ。マンガや雑誌のように消費ペースが速いものが中心だと、算定基準をクリヤーするものはより多くなるし、読み放題の中で読まれる量も増える。

 「10%ルール」が定められた基準は「試し読み」だ。小説なら10%で相当な部分の試し読みになるが、マンガではそうでもない。20%読んで「やっぱり合わない」と思ってやめる人もいるだろう。雑誌でも、特集だけを見たくて他はいい、という人の場合、読みたいページ量は10%を軽く超える。結局、ほとんどの本が試し読みではなく「全額支払い」の対象になる。

 これを再び「食べ放題の肉」で表すなら、霜降りの柔らかくて薄い肉がでてきて、「思った以上にたくさん素早く食べられたので消費が進んだ」という感じだろうか。



実際には、問題はこれだけにとどまらない。一度は書籍をKindle Unlimitedに提供した出版社が、それを早期にひっこめた例も少なくない。中には、著者への相談不足もあったように聞いている。

 だがそれより重要だったのは、「思った以上に皆が読み放題に流れ、きちんと買ってくれる人が減るペースが大きかった」ということだ。

 電子書籍では、書籍の「存在」を示すのが難しい。そもそも買いに来ても、ほとんどの人は「検索」しない。さっと新着やランキングを眺めて、欲しいものがあるかを確認するだけだ。Kindleのランキングは、Kindle Unlimitedスタート以降、読み放題対象作品であふれている。すると、Kindle Unlimitedに入っている人はそこで手を止めるし、そうでない人には目的の書籍が目につかなくなる。


 本来ならばアマゾンは、

・ マンガなどの多い日本にあわせた読み放題のカウントの仕組み
・ Kindle Unlimitedとそうでないものを分けた、わかりやすいランキング

 などの仕組みを整えた上でサービスを開始すべきだった。そうすれば、読み放題をショーケースに有料の本を売るモデルが成立する。だが、アマゾンは基本的に世界中で同じ仕組みをつかうがゆえに、今回はずれが顕在化してしまっている、と結論できる。

 電子書籍や配信では「海外では」という話になることが多い。実際、海外に学ぶべき例は多いと思う。だが、こと出版に関していえば、日本は他国と違いすぎる。そして、その違いに合わせたビジネスの姿が見えてきたところである。もはや日本は「電子書籍先進国」の一つであり、遅れた国ではない。

 そうした事情のすり合わせなしにスムーズなビジネスは行えない、というのが、今回、Kindle Unlimitedからさらに明確に見えてきた、と言えそうだ。

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