首相「地理的概念とせず」 集団的自衛権行使の解釈見直し 時期は明言避ける
2013.9.26 産経ニュース
安倍晋三首相は24日夜(日本時間25日午前)、訪問先の米ニューヨークで同行記者団に対し、集団的自衛権の行使容認に関する憲法解釈の見直しは地理的概念では捉えず、国益に与える影響で検討する意向を示した。自衛隊の活動範囲を地理的に絞るか否かで政府内には見解の相違があったが、首相の発言で決着がついた格好。一方で、行使を容認するかどうかの結論を出す時期については公明党に配慮し、「いつまでにと設定するつもりはない」と明言を避けた。
首相は憲法解釈のあり方について、「サイバー攻撃は国境を越えている」と指摘。日本人10人が犠牲になった今年1月のアルジェリア人質事件にも触れ、「さまざまな場所でテロが発生し、日本人はいろいろな場所で活躍している。かつてのような地理的概念はなくなっている。『地球の裏側』という考え方はしない」と強調した。
首相が「地理的概念」を否定したのは、経済のグローバル化や科学技術の進展に伴い世界が狭まっているにもかかわらず、集団的自衛権行使が容認された場合の自衛隊の活動範囲が「地球の裏側」まで及ぶかどうかをめぐる論争が続いているからだ。「地球の裏側」という表現は、行使容認を日本の自衛に関わる事態に限定し、米軍の軍事行動に無制限で追従しないという基本的な考えをイメージしやすくするため生まれた。
これに対し、高見沢将林官房副長官補は19日の自民党部会で「あらかじめ具体的な状況が分からないのに『地球の裏側に行けない』という性格ではない」と説明。小野寺五典(いつのり)防衛相が「地球の裏側に行って戦争するような実際と異なるイメージが独り歩きしている」と苦言を呈し、見解が割れていた。
こうした「行ける」「行けない」論争が続けば、重視すべき「国益」という観点が抜け落ち、ゆがんだ議論になりかねない。首相自ら地理的概念を否定し、政府の見解を統一したことで、この論争に終止符を打った形となった。
一方で解釈変更の結論を出す時期について首相は明確にしなかった。解釈変更に慎重な公明党に配慮したとみられ、山口那津男代表は25日の都内での講演で、「首相の最近の発言は、当初の予定を少し遅らせても構わないということだと理解している」と語った。
集団的自衛権(英語:right of collective self-defense、フランス語:droit de légitime défense collective)
とは、
他の国家が武力攻撃を受けた場合に直接に攻撃を受けていない第三国が協力して共同で防衛を行う国際法上の権利である。
その本質は、直接に攻撃を受けている他国を援助し、これと共同で武力攻撃に対処するというところにある。
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集団的自衛権容認へ意欲=右傾化批判に反論−安倍首相
【ニューヨーク時事】安倍晋三首相は25日昼(日本時間26日未明)、
ニューヨークで開かれた米保守系シンクタンク「ハドソン研究所」主催の会合で、安全保障政策をテーマに演説した。首相は集団的自衛権の行使を可能にする憲法解釈変更に強い意欲を表明するとともに、「愛する国を積極的平和主義の国にしようと決意している」と強調。安倍政権に対して米国内の一部にある「超保守」との指摘にも反論した。
首相は公海上での米艦防護などの具体的ケースを取り上げ、「日本の艦船はどれだけ能力があっても米艦を助けることができない。集団的自衛権の行使となり、違憲になってしまうからだ」と、現行憲法解釈の問題点を指摘。国連平和維持活動(PKO)に従事する他国の部隊が攻撃されても、自衛隊の部隊は応戦できないことにも言及し、「いかに対処すべきか、私たちは今真剣に検討している」などと、日本政府内での議論の現状を説明した。
その上で首相は「私の国は(世界の安全保障の)鎖の強度を左右してしまう弱い一環であることなどできない。積極的平和主義の旗の誇らしい担い手となる」と強調。日本版NSC(国家安全保障会議)設立や国家安全保障戦略策定の方針も紹介した。
首相はまた、直接名指しはしなかったものの、「隣国に軍事支出が少なくとも日本の2倍の国がある。毎年10%以上の伸びを20年以上続けている」との表現で中国の軍備拡張に警戒感を表明。一方、日本の2013年度の防衛予算の伸びが前年度比で0.8%にとどまっている点に触れた上で、「私を右翼の軍国主義者と呼びたいなら、どうぞ呼んでいただきたい」と語り掛け、右傾化の懸念には及ばないことを訴えた。
(2013/09/26-03:39)
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