福島県会津美里町で2012年、夫婦を殺害してキャッシュカードなどを奪ったとして強盗殺人罪などに問われ、1、2審で死刑判決を受けた無職高橋(旧姓・横倉)明彦被告(49)に対し、最高裁第3小法廷(木内道祥(みちよし)裁判長)は8日、上告を棄却する判決を言い渡した。
死刑が確定する。
判決によると、高橋被告は12年7月26日早朝、同町の病院職員遠藤信広さん(当時55歳)方に侵入。信広さんと妻の幸代さん(同56歳)の首などをナイフで刺して殺害し、キャッシュカードなどが入った財布を奪った。
(読売新聞 2016年3月8日)
福島会津美里夫婦強殺事件
福島県会津美里町夫婦強殺事件
住所不定、無職、横倉明彦(旧姓)被告は2012年7月26日午前5時20分ごろ、福島県会津美里町に住む病院職員の男性(当時55)方に侵入し、現金1万円が入った財布や妻のキャッシュカードなどを盗んだ。そして、起きてきた男性を持参したペティナイフで脅したが応じなかったため、ナイフで突き刺して殺害。近くにいた妻(当時56)を脅してネックレス等(時価合計約10,000円)を奪ったが、119番通報したことに気付いてナイフで殺害した。
横倉被告は2011年11月頃に当時の妻と会津若松市に移住したが、就職したと嘘をつくなどして金に窮した。借家を追い出され、2012年7月23日頃から空き家の敷地を無償で借りて、駐車した自動車内で妻と生活していたが、妻が住居の購入を望んだため、勤め先から購入資金を借りられると嘘をつき、現金強奪に及んだ。横倉被告と夫婦に面識はなかった。
捜査本部は目撃証言などを基に捜査した結果、横倉被告が浮上し、26日に同町内で発見。任意同行して調べたところ、容疑を認めたため、27日、強盗殺人容疑で逮捕した。
自分の妻も殺そうとした
福島県会津美里町で2012年7月に起きた強盗殺人事件で起訴された本籍東京都、無職高橋明彦被告(46)が「事件の2カ月前に自分の妻も殺害しようとしてけがをさせた」と証言した。拘置中の郡山拘置支所で河北新報記者の取材に応じて明らかにした。
高橋被告の話では、12年5月9日午前、当時の自宅があった会津若松市の水力発電所の近くに、当時の妻(40代)を車で連れだし、拳で頭を殴り、千枚通しで首を複数回刺して殺害しようとしたという。妻は命を取り留めたが、けがをした。けがの程度は不明。
家のローンなどで金に困り、妻の衣服やかばんを質屋に入れたことをめぐって口論となり、殺意を持って刺したとしている。福島県警は刑事事件として認知している。
一審
2013年3月14日 福島地裁郡山支部 有賀貞博裁判長 死刑判決
控訴審
2014年6月3日 仙台高裁 飯渕進裁判長 控訴棄却 死刑判決支持
2013年3月4日の初公判で、高橋被告は「最初は、殺意はなかった」と一部否認した。
冒頭陳述で、検察側は「自宅の購入資金が必要になり、最初から住民を殺してでも金を得ようと計画した」と主張。人目につきにくく、貯金があると考えて襲ったと指摘した。一方、弁護側は「具体的な殺害方法は考えておらず、被害者に抵抗されたため殺害した」と訴えた。
5日の第2回公判で、夫の母親と妻の父親が人として出廷し、極刑を訴えた。弁護側は「反省文などを書いており、被害者のための読経もしている」と情状酌量を求めた。
8日の論告で検察側は、119番の録音記録などをもとに、高橋被告が、震える声で「お願い」と繰り返した妻を殺害し、消防からの折り返し電話に「大丈夫です」と冷静に応えた行為を「大金強奪のため黙々と事を進めた」と指摘した。さらに、捜査段階と異なる公判中の供述を「真剣に反省しているとは言えない」として更生する余地がないと強調。事件前に困窮した経緯には「無責任な自らの行動が招いた」とし、遺族の感情と最高裁の判例も踏まえ、「強固な殺意に基づく残虐極まる犯行。極刑をもって臨む他なく、それが正義にかなう」と死刑を結論付けた。
同日の弁論で弁護側は「冷静に答えた公判の供述を信用すべき」と訴え、計画性は実際になかったと主張した。また、反省し更生する意思があるとし「死刑判断を軽々しくしてはいけない。生きて罪を償う真人間になれるか吟味する必要がある」として無期懲役を求めた。
判決で有賀貞博裁判長は、高橋被告が当時の妻に約束していた住宅購入の資金を得るため犯行に及んだと指摘。「住宅購入用の現金を奪うという動機は利欲的で、更生の余地を考慮しても死刑が相当」と述べた。
弁護側は即日控訴した。
2013年11月28日の控訴審初公判において、弁護側は動機について「妻にホームレス生活をさせないため、家を買う資金が必要だという強迫観念にとらわれていた」と訴え、一審判決で事情が十分に酌まれていなかったと主張。また、高橋被告に「認知の歪み」があるとし、常識では考えられないことに固執し、場当たり的な判断をする性格を一審で考慮する必要があったとし、次回公判で心理鑑定を行った専門家の証人尋問を求めた。また一審で裁判員を務めた郡山市の女性が判決後、「急性ストレス障害(ASD)」と診断されたことを踏まえ、同支部は裁判員を解任・辞退させずに「漫然と訴訟手続きを進めた」と批判。「訴訟手続きに法令違反がある」などと主張するとともに、高橋被告に当初から殺意があったと認めた一審判決には事実誤認があると指摘し、一審判決の破棄を求めた。検察側は「(一審審理中に)裁判員が罹患した証拠は認められず、手続きは適切」と反論、弁護側の控訴棄却を求めた。
2014年3月18日の最終弁論で弁護側は、高橋被告が夫婦のために毎日お経を唱え、死刑になった場合は献体や臓器提供を希望していると述べ、「反省は相当に深まっている」と強調した。検察側は「利欲的で身勝手な犯行。真摯な反省は見られない」と改めて指摘し、控訴棄却を求めた。
判決で飯渕進裁判長は飯渕裁判長は一審の裁判員がASDと診断されたことについて、「裁判員が心身の不調で職務が困難だったとは認められず、公平誠実に裁判員の職務を全うしたと推認される。違法な点はなかった」と弁護側の主張を退けた。また「騒がれるなどした場合には殺害することを事前に計画していた」と認定。そして夫に続き、助けを求めた妻も殺害したことを「冷酷かつ残虐な犯行。死刑の選択を回避する余地があるとは認められない。一審の死刑判決はやむを得ない」と述べた。
被告/死が現実味帯びた/受容一転「生きたい」
高橋被告は、「死刑判決は覚悟していたが、宣告された瞬間、頭が真っ白になり、死が現実味を帯びた。遺族には申し訳ないが、生きたい気持ちは変わらない」と述べた。
「死刑を受け入れて早く楽になりたい気持ちがあったが、弁護人に、『逃げずに罪に向き合いなさい』と言われ、生きて償おうと考えを改めた」と語った。
判決で、被害者を、刃物で十数回刺した残虐性が、指摘されたことについては、「ひどいことをした。そんなに刺した認識はなかった」と話した。
遺族には、「謝罪の言葉しか出てこない。極刑を望むのは当然だ」と語った。
高橋被告は、公判前の2月、河北新報宛に手紙を出した。
「死刑判決が出たら受け入れる。小さいころ、人の命を奪った者は、自分の命で償わなければならないと、親に教わった」と記し、この時点では、死刑判決を受容する考えを、示していた。