大阪の准看護師殺害、2審も無期懲役…大阪高裁
大阪市西成区で2014年、知人の准看護師・岡田里香さん(当時29歳)を殺害したとして、強盗殺人罪などに問われた日系ブラジル人、オーイシ・ケティ・ユリ被告(35)の控訴審判決で、大阪高裁(三浦透裁判長)は12日、求刑通り無期懲役とした1審・大阪地裁の裁判員裁判判決を支持し、被告側の控訴を棄却した。
今年3月の1審判決によると、不法滞在状態だったオーイシ被告は、親密な女性と中国に渡航するため、岡田さんになりすましてパスポートを取得しようと計画。14年3月、岡田さん方で岡田さんの胸や腹をナイフで刺して殺害し、現金を奪うなどした。
争点は刑事責任能力の程度。オーイシ被告は起訴後の精神鑑定で、多重人格として知られる「解離性同一性障害」と診断された。
1審判決は「多重人格の影響はあったが、両方の人格で記憶が共有され、普段の人格が行動を制御できていた」と判断し、完全責任能力があったと認定。弁護側は控訴審で1審同様、「犯行時は別の人格に支配されていた」と訴え、刑が減軽される心神耗弱状態だったと主張していた。
(2019.12.12.読売新聞オンライン)
「別人格が支配」 西成准看護師殺害、鑑定医師が証言
平成26年に大阪市西成区の准看護師、岡田里香さん=当時(29)=を殺害し、現金などを奪ったとして、強盗殺人罪などに問われた元同級生で日系ブラジル人、オーイシ・ケティ・ユリ被告(34)に対する裁判員裁判の第5回公判が4日、大阪地裁(上岡哲生裁判長)で開かれた。オーイシ被告の精神鑑定を担当した医師の尋問があり、医師は、犯行当時は多重人格として知られる「解離性同一性障害」の影響で「別の人格が支配していた」と証言した。
公判で弁護側は起訴内容を認める一方、解離性同一性障害によって行動を制御する能力が著しく減退していた、と主張。刑事責任能力の程度が争点となっている。 鑑定人として出廷した精神科医は、オーイシ被告には「おとなしい」主とした人格と「大胆で冷酷」な別の人格が存在するとした上で、事件当時は主とした人格が別の人格の行動を止められなかったとした。 一方、オーイシ被告は事件前日に岡田さん殺害を一度ためらったとされるが、それについても「別の人格による判断」とした。 また、一般的に別の人格が出現した際の記憶はない場合が多いというが、オーイシ被告は別の人格の記憶があるとして、「解離性同一性障害の程度は軽い」と述べた。
2014年に大阪市西成区の准看護師岡田里香さん=当時(29)=を殺害し現金などを奪ったとして、強盗殺人などの罪に問われた日系ブラジル人のオーイシ・ケティ・ユリ被告(34)の裁判員裁判で、大阪地裁は14日、求刑通り無期懲役の判決を言い渡した。
弁護側は、解離性同一性障害の影響で制御不能な別人格に支配された心神耗弱状態だったと主張していた。
上岡哲生裁判長は、被告が当時、合理的な行動を取っており、善悪を判断できたとして完全責任能力を認定した。
(2019年03月14日 西日本新聞)
「2つの人格」どう判断 西成准看護師殺害14日判決
平成26年に大阪市西成区の准看護師、岡田里香さん=当時(29)=を殺害して現金などを奪ったとして強盗殺人罪などに問われた元同級生で日系ブラジル人、オーイシ・ケティ・ユリ被告(34)の裁判員裁判の判決公判が14日、大阪地裁(上岡哲生裁判長)で開かれる。検察側は「岡田さんになりすますため殺害した」と無期懲役を求刑した一方、弁護側は「他人になりたい」という気持ちには被告の生い立ちが根底にあると強調。心神耗弱状態だったことも合わせて刑を軽くすべきだと訴えている。
「人生をすべてリセットするため、他人を殺害して成り代わるしかないと思った」。検察側が公判で読み上げたオーイシ被告の供述調書の内容だ。
それらによると、事件前夜から岡田さん宅を訪れていたが、「勝手な都合で人生を奪ってしまうと考えると覚悟が決まらなかった」。しかし、翌朝に岡田さんから帰宅を促されて先延ばしはできないと思い、殺害に及んだという。
「親密な関係だった女性と中国へ渡航する目的で、旅券や資金を得ようと岡田さんを殺害した」。「他人になりたい」という供述の背景を、検察側はこう説明する。これに対し弁護側は、供述の背景にはオーイシ被告の抱えていた“葛藤”があると強調した。
弁護側の冒頭陳述などによると、日系3世のオーイシ被告は、小学校入学前に両親と弟とともに来日。大阪の私立高校へ進学したが中退。自身のルーツをたどるべくブラジルに帰国して高校へ編入するも、母国でも周囲に溶け込めなかった。
編入先の高校を卒業後、日本へ戻ったが、在留資格の更新を怠ったために資格を失い、不法滞在の状態となった。こうして「他人に成り代わって普通の生活を送りたい」との衝動が抑えられなくなり、事件へと向かっていった。
オーイシ被告は勾留中、ノートに自身のことを「中途半端でどちらにも属さない人間」とつづったという。弁護側は事件には酌むべき事情があると訴えている。
公判は起訴内容に大筋で争いはなく、刑事責任能力の程度が大きな争点だ。
オーイシ被告は精神鑑定で、多重人格が現れて記憶が抜け落ちる「解離性同一性障害」と診断された。担当した精神科医は公判で、オーイシ被告には「おとなしい」本来の人格と、「大胆で冷酷」な別の人格が存在すると指摘。事件当時は別の人格に支配されており、「行動を制止するのは難しかった」と述べた。
こうしたことから、弁護側は、犯行当時は行動を制御する力が著しく減退していた疑いがあった、と主張。刑は軽くされるべきだと訴えている。
検察側も鑑定結果に争いはない。ただ、ナイフを隠して岡田さん宅を訪問した▽急所の胸や腹を狙って刺した▽殺害後にシャワーを浴びた-といった合理的な行動を取っているとして、「善悪を判断し、行動をコントロールできていた」と主張、完全責任能力が認められると反論した。
オーイシ被告は被告人質問で、殺害時の状況を「私に似た人が1回刺しているのを(自分が)上から見下ろしていた」とし、最終意見陳述では「悪いことをしたと思っていない。この場にいる意味がない」と述べた。こうした供述を、裁判員らはどう判断するだろうか。
(産経新聞2019.3.13)
笑顔のプチ同窓会に潜んでいた「殺意のワナ」 西成・准看護師殺害事件「目的は偽りの身分とカネ」
約10年ぶりに集まった小中学校の同級生との飲み会。旧交を温めるはずの会話の一つ一つが、実は殺害計画に結びついていた-。平成26年、大阪市西成区の准看護師、岡田里香さん=当時(29)=の遺体が東京都内のトランクルームで見つかった事件。強盗殺人罪などで起訴された元同級生の日系ブラジル人、オーイシ・ケティ・ユリ被告(32)は、発生から約3年を経て「身分と金を奪うために何回もナイフで刺した」と供述し、事件の真相を打ち明けた。不法残留の状態ながら「中国に行きたい」と考え、友人名義の旅券を偽造しようとフェイスブックで同級生の情報を収集。旅券がなく、一人暮らしの岡田さんに狙いを定めたという。飲み会で見せた笑顔の裏には、氷のような殺意が潜んでいた。岡田さんが西成区内の自宅マンションで殺害されたのは26年3月22日午前。遺体は同月25日、オーイシ被告が当時住んでいた東京都八王子市内のマンションに宅配便で「人形」として届けられた。その後、業者によって近くのトランクルームに移送。2カ月後の同年5月21日に遺体は見つかったが、約50カ所の刺し傷や切り傷があった。 大阪府警は、遺体の梱包(こんぽう)物からオーイシ被告の指紋が検出されたことなどから、オーイシ被告が事件に関与したと判断。しかし、オーイシ被告はすでに同年5月3日、岡田さんになりすまして取得した旅券で中国・上海へ出国していた。 岡田さんの遺体が見つかったことがニュースで流れると、オーイシ被告は同月27日、上海の日本総領事館に出頭。「岡田さんに同意を得た上で旅券を取得して中国に入国した。事件とは無関係と説明したい」と釈明したが、中国の公安当局は不法入国の疑いで身柄を拘束した。
府警は外交ルートを通じて身柄の引き渡しを求めた結果、出頭から約2年8カ月後の今年1月25日、ようやく日本に身柄が移された。 大阪府警はまず、身柄引き渡しとともに岡田さん名義のクレジットカードを不正使用したとする詐欺容疑などでオーイシ被告を逮捕。その後、3月3日に強盗殺人容疑で再逮捕し、事件の真相解明を進めた。
捜査の鍵を握ったのはオーイシ被告の供述だった。 ある捜査関係者は、正式に身柄引き渡しが決まった際、「中国に身柄引き渡しを求めた時点で、起訴するだけの証拠は十分そろっている。オーイシ被告が関与したことは間違いないが、本人が口を開かなければ、実際に何が起きていたのか分からない」と語っていた。 取り調べは難航した。詐欺容疑で逮捕された当初、オーイシ被告は「何も話すことはない」と供述。しばらく否認を続けたが、次第に態度は揺れ動いた。強盗殺人容疑での再逮捕後、ようやく自身の半生から岡田さんを殺害した経緯を明かした。 ブラジル生まれで、小中学校は日本で過ごしたものの、高校の途中でブラジルへ。20歳のときに再び日本に戻ると、しばらくして八王市内のマンションで大学院生だった中国籍の女性とルームシェアを始めた。 転機となったのは25年秋。中国籍の女性が翌春から上海の日系企業で就職することが決まったのだ。この頃から「中国の大学に行って広告の勉強をし、広告関係の仕事に就きたい」と考えるようになった。 ところが、中国へ行くには大きな障壁があった。
オーイシ被告がブラジルから日本に入国したのは16年秋。在留資格は「定住者」で、3年間の期限だった。19年秋に期限が切れるため、在留期限が制限されない「永住者」への資格変更を申請したが許可されなかった。それ以降、定住者としての資格更新もせず、不法残留の状態となっていたのだ。 正規の手段では日本から出国できず、外国人が旅券を偽造したとのニュースを見て「身分は他人で、顔写真だけ自分にして偽造すればいい」と思い至った。 偽りの身分となりうる人物を探すため、フェイスブックなどのSNSを通じて友人の情報を収集。海外旅行や留学経験がある友人はすでに旅券を所持しているため除外し、さらに家族と同居している場合も襲うのが難しいため候補から外した。 その結果、条件が一致したのが岡田さんだった。
オーイシ被告の悪意に気付くはずもない岡田さん。殺害される約3カ月前の26年1月初め、無料通信アプリ「LINE(ライン)」に《東京に住んでいる中学校の同級生からメッセージが来た》と、久しぶりの連絡を喜ぶような書き込みをしていた。 さらに翌2月1日には、フェイスブックに《今日は夕方から小学校の同級生と会うよー。10年ぶりぐらいかな》と記載。居酒屋で4人で食事をする「プチ同窓会」の写真がアップされ、その中にオーイシ被告の姿があった。 懐かしいメンバーが集まった同窓会。オーイシ被告は、この日について「漠然と岡田さんを『殺そう』と考えていたが、どうやって殺害するか思いついていなかった」と供述している。 岡田さんの自宅に泊まり、翌日東京に戻ったオーイシ被告は1カ月半余りを経て、殺意をより強固にして再び岡田さんに接触する。同年3月21日夜、ホームセンターでナイフを買い、かばんに忍ばせて岡田さんの自宅へ押しかけた。
「葛藤していた。ズルズルと時間だけが過ぎていった。朝が来て焦ってきた」と振り返るオーイシ被告。約束もないまま自宅を訪れ、帰ろうとしないオーイシ被告に対し岡田さんはいらだちを募らせ、「ええかげんにしてよ。帰って」と立ち上がったときだった。 「横に置いていたかばんの中からナイフを取りだし、岡田さんの腹部目がけて体ごとぶつかるようにして刺した。その後のことは覚えていないが、何回も何回も刺した」(オーイシ被告) 殺害直後の行動を「記憶にない」と説明しているが、捜査関係者によると、岡田さんの自宅には血を拭き取ったような跡があった。凶器とみられるナイフも血液反応がわずかで、隠蔽工作を重ねていたとみられる。 オーイシ被告は、ホームセンターで購入した段ボールや緩衝材で遺体を梱包。当時住んでいた八王子市のマンションに「人形」として発送した。
岡田さんを殺害し、健康保険証やクレジットカードを奪ったオーイシ被告は、健康保険証を使って取得した戸籍謄本をパスポートセンターに提出し、同年4月3日に岡田さん名義の旅券を受け取った。 その後、上海に出国するまでに、健康保険証を悪用して岡田さん名義のクレジットカードを新たに6枚作り、ホテルの宿泊代や服の購入などに使っていた。当時、数百万円の借金があり、不法残留に加え、金銭面も逼迫(ひっぱく)していた。 約2年8カ月にわたり中国で身柄拘束された末に日本に戻り、当時の状況を詳細に明かしたオーイシ被告。当初の否認を重ねる態度は一変し、最後は取り調べの中で「申し訳ないことをした気持ちで一杯で、色々な人に迷惑をかけて悲しい思いをさせた」と涙ぐむこともあったという。
わかりやすい「解離性障害」入門岡野 憲一郎
解離性障害―多重人格の理解と治療岡野 憲一郎