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判決の直前、朝日新聞記者のもとに届いた木嶋佳苗被告の「手記」

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首都圏連続不審死事件で死刑判決を受けた木嶋佳苗被告(37)。さいたま拘置支所で勾留生活を送る被告は3月の結審後、朝日新聞記者との手紙のやりとりに応じていた。
判決直前には便箋(びんせん)20枚に及ぶ「手記」を寄せ、公判まで黙秘を続けた理由などについてつづった。

記者は昨年から木嶋被告に手紙を送っていた。初めて返信があったのは最終弁論(3月13日)の翌日の消印。
ボールペンを使い、白い便箋に丁寧に書かれた文字が並んでいた。以降、6回にわたってやりとりが続き、判決の直前に手記が届いた。

手記は1万2328字。丁寧に筆が運ばれており、書き直された箇所はひとつもなかった。



「世間に向けて私の言葉で明らかに」木嶋被告手記


木嶋佳苗被告の「手記」は判決の直前、朝日新聞記者のもとに届きました。
過去最長となった裁判員裁判では、3人の男性の不審死をめぐる被告の法廷での発言が大きな社会的関心を呼びました。
朝日新聞では事件の重大性を踏まえ、被告の法廷発言を理解する手がかりの一つになると判断し、本人の了解を得て手記の全文を掲載することにしました。

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この度は、心ならずも、世間を色々とお騒がせ致しました。
私の事件は、平成21(2009)年の10月末から2年半に渡って、様々なマスメディアで報道されました。
それを見聞きした日本中の人たちに、私は有罪との心証を植え付けられたのであろうことが、裁判員裁判の判決に影響を与えるのではないか、との懸念を抱いてきました。

大きな刑事事件は、世論の動きに左右されます。
メディアが社会に対して、私を悪者とレッテルを貼り、酷薄非道な過熱報道をすれば、その情報の受け売りが、国民の意見になってしまうのです。
メディアのマインドコントロール力の強大さには、寒心に堪えません。メディアによって先入観を植え付ければ、世論は簡単に動かされうることを知りました。

現在もあきれ果てるほどの報道が続いていますが、裁判が終わった今、そろそろこの辺で、法廷では話していない私の心境を述べておいた方が良いだろう、という気持ちが芽生えてきました。

評価や意見は個人の自由ですが、明らかに事実誤認した話が喧伝(けんでん)され、曲解した臆測が乱れ飛び、私や事件について、多くの誤解をされたことに心を痛めています。
風説を打ち消すことは出来なくとも、世間に向けて私の言葉で明らかにしておきたいと思いました。

この手記は、判決が言い渡される以前の、評議期間に書いたものです。


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2年半の勾留生活では様々なことを考えました。折々の心境の変化もありました。私の故郷である北海道に、報道陣が大挙して取材合戦を行い、
マスコミを賑(にぎ)わせた時でさえ、私の子供時代について正確に把握した人は皆無でした。

私は子供の頃から、誰に対しても深いところまで心や意識を開いてなかったので、他人にわかるはずがありません。
常に期待に応えることに必死になって生きてきて、私には伸びやかな子供時代がなかったように思います。
私の成育環境についても多くの質問が寄せられました。多分、木嶋佳苗の成り立ちのようなものに興味を持つのでしょう。


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善悪の認識も欠如していたようです。自分の意識や体が創造する超越した絶対性に固執し続けるうちに、現実社会に対して関心が無くなり、大人としての自覚は鈍磨したまま年齢を重ねていきました。
自分の内面の切実な問題を直視する勇気もなくて、業について考え出すと辛くなり、心を寂しく虚(むな)しくしていくばかりでした。

人生や自我を考えた時に宗教の領域まで行かなかったのは、子供の頃から多くの書籍を読んでいたので、人間の本性や宿命に免疫ができていたことと、
どのような宗教も辿(たど)り着く頂点は同じであろう、と達観していたからです。特定の宗教に傾倒することはありませんでしたが、信仰心は大切な気がします。

私のような人間にとって、この世の中はとても生き難い場所です。
10年以上交際していた男性からモラルハラスメントを受けてきたことも、私の精神を蝕(むしば)み、自分の中の迷路でもがき続ける結果になりました。
心の暗闇との絶え間なき闘いは、そう簡単に処理しきれる問題ではありません。過去を考察すると、私は長い間、楽しいけれど実質的には空虚な世界をさまよってきた気がします。

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自分は加害者であるけれど、何かにおいては被害者であると分析できた時に、自分の抱える問題を解決するきっかけが訪れるはずです。

今までのことから学び、反省し、大切なものと不必要なものを把握して、現状に打ち勝つバネにすることができたなら、その時にはひとまわり大きな自分を得られるでしょう。
私はいつもこのように考えています。何にでも、負けて諦めてしまったら終わりなのだと。辛い勾留生活を乗り越えたからこその、自己治癒が可能な側面もあります。


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人間の過去の記憶は、それ程正しいものではありません。勘違いや思い違いをすることもあります。人が遭遇する出来事や言動は、合理的に説明できることばかりではありません。
経験した全てのことを覚えている訳でもありません。数カ月、数年前の出来事や情報を、正確に記憶の中から引き出せる人の方が少ないでしょう。

忘却の彼方(かなた)にある曖昧模糊(あいまいもこ)とした記憶を、手探りで思い出しながら話をしていくと、以前伝えたことが間違っていたことに気付くことも、当然のごとくあるものです。

でも、取り調べでは供述調書を作成していたら、裁判でも訂正をしても、検察側に、今まで話していたことは嘘(うそ)だ、あるいは調書の内容こそ本当だ、矛盾している、信憑(しんぴょう)性がない、と揚げ足を取られます。
裁判ではその調書を、鬼の首でも取ったように、自己矛盾供述だなんだかんだと検察側は責め立てます。調書を作ることは、検事を喜ばせ、難癖をつける恰好(かっこう)の材料を敵に与えるだけなのです。


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裁判が始まってから一番反響が大きかったのは、私が法廷で性的な話をしたことです。私の個人的な生活において、食と性が一番のプライオリティー(優先順位)を持つものでした。

私を理解していただく為には、性についての話題は必然的なものですから、法廷では必要最小限の事実を、正直に証言したというだけです。
私は情事に対して、極めて真剣に私の流儀で取り組んできました。真意が伝わらなかった点は不本意です。社会の共感が得られなくとも、法廷では自由に陳述できると許されなければ裁判の公平さは保たれないと思います。


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朝日新聞デジタル 2012.4.13


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