バッハ:ゴールドベルク変奏曲 (55年モノラル盤)
ソニー・ミュージックレコーズ バッハ:ゴールドベルク変奏曲(55年モノラル盤)
SMJ(SME)(M) バッハ:ゴールドベルク変奏曲(55年モノラル盤)
グールド(グレン),バッハ J.S.バッハ:ゴールドベルク変奏曲 BWV988 / グレン・グールド【ピアノ】
録音:1955年6月 ニューヨーク(モノラル録音) その後数々の伝説をつくりあげることになるピアニスト、グレン・グールドの記念すべきデビュー・アルバムは、モノラル録音によるバッハの「ゴールドベルク」です。このアルバムにおける演奏は、当時の、そしてもちろん現代の聴き手の心を確実に捉えて離さないものです。グールドといえば「バッハ」であり、そして「ゴールドベルク」ですが、彼のすべての表現の第一歩となったこの録音を聴かずしてグールドは語れません。「ゴールドベルク」に始まり、「ゴールドベルク」に終わった彼のディスコグラフィのなかでも、もっとも重要な1枚です。
グレン・グールド/ ゴルトベルク変奏曲コンプリート・レコーディング・セッションズ1955(7CD+LP)
Sony Classical *cl* 20世紀クラシック録音史上最も成功を収めたグールドのデビュー盤「ゴールドベルク」20世紀に隆盛を極めたレコード産業は数々の伝説的なアーティストを生み出してきました。1956年1月に発売されたグレン・グールドの最初のゴールドベルク変奏曲は、史上最も成功を収めたクラシック音楽のアルバムであり、録音史のアイコン的存在でもあります。グールドの生誕85年を記念し、グールド・エステイトの全面協力を得て発売されるこの『グレン・グールド/ゴールドベルク変奏曲 コンプリート・レコーディング・セッションズ1955』は、当時22歳だったグールドにとって米コロンビア・レーベルへのデビューとなったこの伝説的な録音が生み出された、1955年6月10日~16日の間の4日間にニューヨークのコロンビア30丁目スタジオで行なわれた録音セッションの全てを世界で初めて一つのパッケージに収めたボックス・セットです。この伝説的なセッションの模様の一部はこれまで2002年発売の『A State of Wonder Glenn Gould The CompleteGoldberg Variations』(トータルで12分32秒分のアウトテイク)、2005年発売の『グレン・グールド1955年のゴールドベルク変奏曲 伝説の誕生』(トータルで7分12秒分)でCD化されてきましたが、その全貌が公開されるのは今回が初めてです。
伝説的なアルバムが生み出されていく過程を追体験CD1~CD5には4日間に収録されたセッションの全テイクが、テイク間のグールドとプロデューサーであるスコットとのやり取りも含めて、各変奏ごとに収録され、1955年6月10日(金)の朝に響いたアリアの最初の音から、ダ・カーポ・アリアの最後の音が消えた6月16日(木)の夜11時ごろまでのその伝説の4日間に、30丁目スタジオで起きたことの一部始終を、グールドやプロデューサーのハワード・スコット、エンジニアのフレッド・プラウトのすぐそばで見聞しているかのような体験に導いてくれます。CD6は1981年の「ゴールドベルク変奏曲」再録音の発売に際してCBSが企画した販促用のインタビューで、「ゴールドベルク変奏曲」の新・旧録音とともに3枚組のLPとして1984年に発売されたもの。CD7は55年録音の最終編集版の最新DSDリマスター(2015年発売の『グレン・グールド・リマスタード ザ・コンプリート・アルバム・コレクション』に際してリマスターされたもの)です。LPは、CD7と同じ2015年のDSDリマスターを使ってチェコのGZメディアでプレスされた180グラム重量盤LPとなります。
280ページの別冊解説書は、これまでに類を見ない、貴重な資料のオンパレード
280ページ、オールカラーの別冊解説書には、この伝説的なセッションをめぐるグールド研究者のエッセイ、オリジナル・プロデューサーへのインタビューのほか、当時のコロンビア・レコードが保管していたさまざまな記録書類や関連資料の現物をスキャンした写真を掲載し、どのようにグールドのデビュー盤が作り上げられていったかについて、まるで歴史的遺産を扱うかのような緻密なドキュメンテーションがなされています。グールドプロデューサーとの対話は全て英文でスクリプト化され(独/仏訳付き)、該当するテイクの演奏箇所を赤インクで示した全曲の楽譜とともに、セッションの進行をつぶさに辿っていくことが出来ます。またグールドが「ゴールドベルク変奏曲」を録音した同じ日に、30丁目スタジオで誰が何を録音したか、収録はどういう順序で行なわれたか、表紙に使われた30枚の写真(セッション初日に写真家ダン・ワイナーによって撮影)がどのように撮影され、どの写真が選ばれて配置されたか、LPのカッティングはどのように行なわれたか、録音に使われた30丁目スタジオ(外観/内部写真も掲載)やプロデューサーのスコット、エンジニアのプラウトについての情報など、当時のレコード制作のプロセスを生々しく追体験できるような詳細な情報が網羅されています。
別冊解説書の掲載内容 (記述部分は英語 / ドイツ語 / フランス語)
(1)デボラ・イシュロン「7つ道具」(1956年デビュー盤のプレス・リリース)(2)ミヒャエル・シュテーゲマン「ゴールドベルク変奏曲」【新規】★(3)ケヴィン・バザーナ「グレン・グールド伝説の誕生」【新規】★(4)ミヒャエル・シュテーゲマン「プロデューサーは語る~プロデューサー、ハワード・H・スコットへのインタビュー」(2005年発売の『グレン・グールド 1955年ゴールドベルク変奏曲 伝説の誕生』の解説書所収)(5)ローベルト・ルス「今回の発売に当たって」【新規】★(6)CD1~5のトラックリストと語りの全スクリプト(7)ゴールドベルク変奏曲の全楽譜(演奏箇所の表示入り)(8)グレン・グールド「ゴールドベルク変奏曲」(1956年発売の初出LP所収のグールド自身による曲目解説)(9)コロンビア30丁目スタジオ、ハワード・H・スコット(プロデューサー)、フレッド・プラウト(エンジニア)について(10)45枚に及ぶ録音セッション時の未発表写真、アナログ・マスターテープ(スコッチ社製)の外箱とリールの写真(11)ソニー・クラシカル・アーカイヴに保管されている「ゴールドベルク変奏曲」にまつわるさまざまな当時の記録書類や関連資料(現物をスキャンした写真で掲載)・アーティスト・コントラクト・カード・グールドの専属契約書(最終頁、グールドと当時のコロンビア社長ゴッダード・リーバーソンの署名入り)・30丁目スタジオの録音スケジュール表(6月6日~16日までの連日のスタジオ使用状況を記したリスト)・米国音楽家協会録音報告書・録音セッションの全テイクシート(エンジニアが録音セッションでのテイクを記録したもの)・編集/マスタリング指示書・レーベルコピー・LPカッティング指示書(LP製造の際のカッティングの履歴を記したカード)など
★については、ソニー・ミュージックレーベルズより出荷される商品に特典として付与される<日本語スペシャル・ブックレット>に、宮澤淳一氏による新規解説とともに、日本語訳が掲載される予定です。グールドのデビュー盤誕生の現場を追体験
宮澤淳一
2000年3月、ニューヨークのソニー・クラシカル本社を訪れたとき、「グレン・グールドの録音のアウトテイクは発売しないのか?」と私は担当者に尋ねた。
「確かにアウトテイクの録音テープは倉庫に眠っている。しかし、それを選ぶには、倉庫からの搬出費が発生するし、スタジオでは、必ずエンジニアを雇って再生機器を操作してもらわなくてはならない。コストがかかりすぎるから、事実上無理だ」――というのがそのときの答えだった。
それなのに、今回の企画はどうだ。1955年6月にニューヨークの「30丁目スタジオ」で行われた、グールドのデビュー盤《ゴールドベルク変奏曲》のセッションのすべてのテイクをリリースするというのだ。
これまでにも『ステイト・オヴ・ワンダー』(2002年)や『伝説の誕生』(2005年)といった記念アルバムで、リマスタリングされたデビュー盤《ゴールドベルク変奏曲》と、録音風景の一部が(つまりアウトテイクが)公表されていたが、今回は、アリアと30の変奏すべての複数テイクや、インサート・テイク、リメイク・テイクが5枚のCDに収められており、グールドの録音に最初から最後まで立ち会っているような気分にさせてくれるだろう。そして「ファイナル・エディット」である完成盤は、CDとLP(180gヴァイナル)の両方が用意されている。また、1982年収録の有名な「ティム・ペイジとの対話」も改めて聴ける。あわせてCD7枚、LP1枚がこのボックスの音源だ。どれだけコストをかけてでも「すべて」を世に出す価値があると考えた関係者の熱意が伝わってくる。
加えて素晴らしいのは、カラーで約280ページにもおよぶ、大判の解説書である。おなじみのミヒャエル・シュテーゲマンやケヴィン・バザーナの解説に加え、この《ゴールドベルク》のオリジナル・プロデューサー、ハワード・スコットのインタヴュー(再録)、今回の企画のプロデューサー、ローベルト・ルスによるアウトテイクに関する詳細なレポートも収録されている。楽譜も掲載され、アウトテイクの演奏部分の照合ができるなど、親切な作りだ。そして、やはり写真が魅力的だ。グールドの未発表のポートレイトやスタジオの風景も多数掲載されているし、録音・編集時の作業用書類もカラーで複写されている。ジャケットや盤面ラベル(複数ある!)の写真等を含め、すべての画像に時代の空気が漂っており、LPを愛聴したグールド・ファンにとっても、CD世代やポストディスク世代のグールド・ファンにとっても、興味の尽きないアイテムとなろう。
1956年1月に北米で、同年11月に日本で発売されたグールドのデビュー盤《ゴールドベルク変奏曲》は、今なお、みずみずしく、いとおしい。今回の『ゴールドベルク変奏曲 コンプリート・レコーディング・セッションズ1955』を通して、その誕生の現場を追体験してみてほしい。
(2017年7月)